鞍山中に無念の涙
北御門 彦二郎
寒風肉裂く冬の朝 熱砂骨焼く夏の夕
花も紅葉もよそにして鍛えに鍛えしこの腕
正月天理中に惜敗したその翌日から既に今年の練習は始まっていた。 文字どおり粉雪が舞い凍りついた厳寒のグラウンドで、そして酷熱の太陽が骨をも焦がす猛暑のグラウンドで「今年こそはいけるぞ!」と諸先輩に励まされて、ややもすれば鈍りがちな闘志をかきたてかきたて「全国制覇」に向って猛練習に猛練習を重ねた。
かくていよいよラグビーシーズンが到来した。 我々の練習の成果を、そして実力を示す秋がきたのだ。若き血に燃ゆる福中ラガー、行け、進め、栄冠に向って! おお聞えるではないか、先輩の激励と千二百同胞の応援の声が。
福中 15-13 福高商(4月14日・春日原)
福中 26-13 西南(5月2日・福中)
第二回七人制ラグビー大会(春日原)
一回戦 福中 20-10 修猷
優勝戦 福中 16-5 小倉師
メンバー
FW 高田 清原 甫守
HB 次賀
TB 中村 内田
FB 北御門
かくて我等は強敵修猷を破り、新進小倉師範をよせつけず、再び真紅の優勝旗を獲得した。
福中 14-3 福高(6月7日・福高)
現役 3-63 OB(8月4日・春日原)
福中倶 31-0 修猷倶(8月11日・春日原)
福中 3-16 福高商(9月1日・春日原)
何たることか、苟も先生先輩の応援にもかかわらず、あれだけ勝利を誓ったのに、こんな実力でどうして全国制覇が達せられようか。奮起せよ福中ラガー!
福中 3-56 福中倶(9月8日・春日原)
福中 31-0 福高(9月11日・九大)
福中 13-22 門鉄小倉 (9月22日・九大)
福中 18-11 九医(9月22日・春日原)
九医は流石に老巧ぶりを発揮してよく球を取るがTBのハンドリング悪くチャンスをつぶしたのに反し、福中はFWの健闘と北御門の再度にわたるインターセプトで、高専界自他共にNO1の九医に快勝した。
福中 67-0 佐中(9月29日・九医)
福中 31-11 西南(10月1日・春日原)
10月8日、今日は地区予選対福商戦が行なわれる。戦前中園先生から藤先輩の訃報が伝えられた。 瞬間我々は耳を疑った。しかしそれは信ぜられないが事実だった。先輩は昭和五、六、七年と名FWとして血のにじむ努力をされ、八年正月の甲子園大会を最後に卒業後八幡製鉄のレギュラーとして活躍された。謹んで先輩の御冥福をお祈りしたい。
全国中等学校ラグビー大会九州予選
一回戦 福中 57-0 福商(10月8日・九大)
福中が得たトライの大部分は甫守、高田等の長駆快走を含んでいるが、大体としてゲームの運びは雑であった。バックローが攻撃にのみ力を注ぎ、 カバーを怠りがちとなり福商の捨身の出足に阻まれている。・・・これで福中対修猷戦が非常に興味をそそるものになってきた。 (九州日報)
二回戦 福中 28-0 修猷(春日原)
事実上の優勝戦である。FWは福中やや有利、バックスは大物郡、宮崎と並べた修猷が、老巧北御門、中村の福中陣を突破できるかどうかにかかっている。いずれにしても両軍の闘志が勝敗を決するものと思われた。試合はまずグラウンドを埋めた両校の応援に始まり熱戦が期待されたが、スコアの示すとおり福中の一方的ゲームに終わった。勝因の第一はFWの健闘である。タイトよりもルースの突っ込みが素晴らしく、生きたボールを数多くバックスに回したのでTBの各選手は余裕をもってプレーができた。修猷も個々の選手が持味を発揮して善戦したが、現役OBが一体となった福中の軍門に降った。 この試合をみて全国大会での福中の活躍が期待される。(九州日報)
第二次予選 (11月23、24日・春日原)
準優勝戦 福中 20-0 嘉穂中
嘉中の猛烈な闘志、殊にFWの健闘と主将大谷の孤軍奮闘は敵ながら天晴れであった。
優勝戦 福中99-0 熊本商
予想どおり我々は四年連続全国大会出場権を握ることができた。先輩の熱心な御指導と千二百福中健児の声援の賜である。 我等部員一同は最後の努力を傾注して、意気と力で全国大会に臨んだ。
第十九回全国中等学校ラグビー大会の出場校は函館商業、秋田工業、成城尋常科、 京都一商、 天理中学、神戸一中、崇徳中学、脇町中学、福岡中学、台北一中、鞍山中学。
いよいよ全国制覇をめざして檜舞台に出発することになった。例によって門司からバイカル丸に乗船、鳴門の渦潮をみながら神戸に上陸、郷土の先輩の御厚意をうけて浜甲子園の別荘に合宿した。一回戦は不戦勝であったがグラウンドが使えず甲陽中学の野球場を借りて練習した。
戦いの日は遂にきた。 フィフティーン一同 「絶対に勝つ」の自信はあったがさすがに緊張の一色で南運動場に向った。大きなスタンド、芝生は枯れていたが素晴らしく立派なグラウンドが我等の奮闘を待っている。晴天だがかなり強い風が浜から丘へグラウンドを斜めに吹いていた。軽い練習のあと先輩の激励をうけて、「さあ行け、死んでも勝て!」とグラウンドに飛びだした。
(試合経過)
前半鞍中トスに勝ち風上に陣す。 福中ホイッスルと同時に鋭いダッシュで鞍中陣に攻め入るも、鞍中ドリブルの猛襲で反撃し福中苦戦。福中FWパスと鋭い突っ込みでジリッジリッと敵陣に侵入、ゴール前に迫るも、風上を利した鞍中の長蹴に返され一進一退白熱戦を展開するうち、10分、鞍中陣25ヤード右中間でPKを得、清原慎重にゴールを狙ったが風に流されてはずれる。
その時鞍中の反則で再度PKを試みたが失敗、先制のチャンスを逸す。
14分、中央線左寄りのタイトより福中山本反対サイドに入りダミイで二五ヤード線内にはいったがフォロー遅れて無為。
16分、鞍中福中陣二五ヤード線内に迫り左寄りのタイトを福中焦ってオフサイドをとられ、鞍中外山みごとコンバート。0-3となる。
その後両軍接戦を続けハーフタイムと思われたが、その直前福中陣25ヤード右隅のタイトの球福中左へTBパス、山本、中村孝と渡り、中村キックの球が不運にも相手に当りはね返るを鞍山小野すかさず拾ってそのまま右中間にトライ。外山のコンバート成功して0-8とリードされ前半を終る。
しかし我々は少しもひるむところなく後半には必ず挽回できる自信があった。
後半、福中元気一杯にキックオフを受け、FWの物すごい突っ込みでたちまち鞍山陣に殺到二五ヤードラインに迫るも鞍山必死に防戦して一進一退するうち、6分、鞍山陣25ヤード左のタイトよりFWみごとなヒールアウト、球は次賀、山本さらに反対サイドの中村堯がライン参加して北御門中村と渡り、中村は得意のスワーブでマークをはずして快走、多々野を余して右中間にトライ。
胸のすくような見事なトライにスタンドから大歓声があがる。が惜しくもゴールならず。意気あがる福中は引続き鞍山を圧倒、ルースからルースへとFWの突っ込み、TBもまたロングパスをウイングまで回し、或はパントでまた山本のダミイでしばしば敵のゴールに迫るも、ドロップアウト、PKに返されてチャンスを逸す。
11分、鞍山タッチに逃れんとするをFB内田よくとってパントすれば、鞍山FW失球するを中村強引に奪って快走右隅に殊勲のトライ、ゴールならず。
我々はさすがに嬉しかった。時間もまだ充分ある。あと1トライ、 福中の追撃ますます急、鞍中必死の防戦に25ヤード線をはさんで熱戦また熱戦。福中しばしばゴール前に攻めこむも鞍山キックに逃れてラインアウト、長身の敵FWが球をとる、タッチキック、ラインアウト。鞍中の防禦作戦に福中やや攻めあぐね焦り気味となる。FWの持ちすぎ、TBのパスミス。充分あると思った時間が十分になり五分になり三分に減る。 わかっていながら如何ともしがたいもどかしさ、試合をしながらくやし涙がでる、もう駄目だ、それでもホイッスルはなかなか鳴らなかった。
”福岡中学焦慮の敗”
福岡は終始鞍山を追込みながらオフサイド多く自ら得点の機会を失したのは惜しまれる。殊にFWは大半の球をバックスに回しながら前半は風下の不利にあり、鞍山の強引のつぶしに得点を阻まれ前半8-0の得点のリードはたしかに痛手であった。後半はPKで返され結局これが勝敗の岐路となったことを思えば、FW
もバックスもゲームの運びが鞍山に優っていただけに諦めきれぬものがあるであろう。巨体を揃えた鞍山は各人の体力と走力以外には何らプレーに見るべきものがなく、今後の試合にはFW、バックスの連絡を考慮して臨まぬかぎり優勝はおぼつかない。
(毎日新聞・伊集院)
大会出場メンバー
FW
諸熊・清原・竹崎・中園・鶴丸・高田・高崎・甫守
HB
次賀・山本
TB
中村(堯)・北御門・中村・多々野
FB
内田
堺・森・上野・末次・浦・矢沢
(昭和49年 福中・福高ラグビー部OB会発行「福中・福高ラグビー50年史 千代原頭の想い出」P74)