甲子園の中園先生
御手洗 正行
昭和十一年度、甲子園競技場にて対崇徳中と死闘を演じている福中ラガーのトライ念じつつ、六甲颪の吹きすさぶベンチに、四十度の高熱をおして、志賀先生や私達の止めるのも聞かれず、微動だにせず試合を見守っていられた軍服姿の中園先生。福中ラグビーを校技のように育て、今日の伝統と栄えをもたらされた淳ちゃん。我等ラグビーOBにとって生涯忘れることのできない先生の墓前に、在校中作詩した回顧譜を捧げます。
回顧譜
五の五 御手洗正行
寒風ついて響きける
試合開始のホイスルに
ラガーの心に聞ゆるは
熱声を轟かす
千二百の同胞の
死んでも勝てとの応援歌
中国の覇者崇徳の
巨体を利しての攻撃も
雪をも溶かす福中の
燃える闘志にひるまずや
汗と血潮に色どった
死力を尽くせし此の一戦
駒を進めて七年の
老躯ひっさげ観戦の
中園先生黙然と
病の身体いたはしく
六甲颪の吹く中に
我等のトライ念じつつ
鎬を削る熱戦に
矢尽き刀は折れたれど
我等は福中健児なり
意気なほ高く揚る時
尊き歴史の跡つぎて
おお回天の覇を成さん
(昭和49年 福中・福高ラグビー部OB会発行「福中・福高ラグビー50年史 千代原頭の想い出」P85)