寄稿 高校53回

53回を代表して寄稿

遠藤隆明

小学校三年生の長女が通う柔道教室。ある日の練習中、先生が子どもたちに話した言葉に私は心を奪われた。 

「君たちはなぜ柔道やるのか? 勝った、負けた、強い、弱い、そんなことよりも、 しんどい、きつい、嫌だな、そんなときに諦めずに乗り越える、その気持ちを養うことが何よりも大事なんだ。将来、柔道のときだけでなく、仕事、色んな場面で、今のきつい柔道の練習を経て、あの柔道の練習に比べれば耐えられる、そう思えるようになることが柔道やっている、最も大切な目的だよ」

 娘を含め子どもたちに放たれた言葉なのに、その言葉は私にグサリと突き刺さった。あぁこの柔道教室に通わせてよかったなと思ったのと同時に、自身の高校時代のきつい練習に思いを馳せた。 あのしんどくて終わりの見えない練習にはこんな意味があったんだ。深く腹落ちした。 お陰で、今の私は、多少の辛いことがあっても笑顔で乗り越えることができる。

福岡高校ラグビー部は来年度100周年を迎える。たくさんの諸先輩、後輩の皆さまの手によって今まさに世紀を越えようとする歴史が紡がれてきたこと、そしてこの素晴らしい歴史の中で我々の代も微力ながらもその一員として青春時代を過ごしてきたことは、嬉しい思いと、また誇らしい思いである。 

 思い起こせば25年前、高校一年の4月。私も含めて経験者数名程度を除けば、多数のラグビー未経験者を含む同期16名が集ったあの日。あるものは剣道から、あるものは柔道から、あるものはバレーボールからなど、様々な経歴をもったものたちが、自らの意思で、はたまた半ば強制的に部室に集ったあの日から、僕ら同期16人のストーリーはスタートした。 

 とは言え、40歳になった今、その後3年間の細部のストーリーについては、恥ずかしながら私の記憶はかなり不鮮明である。熱中した日々とはそういうものなのか。 

この寄稿文を書くことになってからせっかくなので色々思い出そうとしてみた。東京で同期と飲んで語り合い、記憶を辿ってみる。そしてパソコンに向かってゆっくりと目を瞑って思い出してみる。

 当時、Backstreet boysのアルバム「millennium」が大ヒットしていた。まさに20世紀末、ミレニアムのあの頃。世間は2000年問題とかで騒いでいた、、らしい。と言うのも、そんなことも気にならないくらい、僕らは目の前のことに熱中しきっていた。 

 思い出す情景。 炎天下の福高グラウンド、香椎工業との一年試合、平和台ボール紛失による二度のダルセン、阿蘇合宿の朝RUN、太るためにとにかく食べた日々、けれどとにかく走って太れない日々、勝ち試合、負け試合、土日練習後のみんなで食べる昼飯、そして最後の修猷との県大会での敗戦。 

それらの経験を通して、今になってようやくわかってくることがある。 冒頭の柔道先生の話が今腹落ちしたように。練習、試合で培った精神力は確かに今に生きていると実感できる。またそれ以外にも、僕らは多くの宝を手に入れていることを実感している。

 例えば、誰かのために、という思い。 現役時代、仲間のために体を張れ、タックルにいけ、森監督、藤先生からずっと伝えてもらっていたことだ。当時自分の弱さで十分にできなかった過去の後悔が、より一層その思いを強くしている。誰かのために、ときに体を張ってでも自己を犠牲にする。そんな生き方がより人生を豊かにしてくれる。高校時代があったからそう思えている。今の自分がそんな生き方を体現できているとは甚だ言い難いが、家族が、同期が、職場の誰かが、目の前の誰かが、辛いとき、苦しいときに、その人のために、一歩だけでも前傾姿勢で手を差し伸べられる自分でありたい。 

 そしてまたもう一つの宝。あの時間を通して得た、同期をはじめとした、かけがえのない福高ラグビー部の仲間である。 今でもたまに飛び交う同期内のLINEグループ。 たわいもない会話の中に、それぞれ温かみのある、絆を感じる。この仲間を大切にしようと思える。 また同期だけでなく、数多くの諸先輩、後輩の絆の深さは、卒業し年を重ねるたびに気づかされる。 この絆を大切にしたい。 

 福高ラグビー部で培った精神、思い、絆を大切に、今後の人生も日々精進していきたい。