寄稿 高校55回

思い出

時枝明正

少しフライングですが、まずもって福中・福高ラグビー部創部100周年おめでとうございます。
我々55回生、どういった学年だっただろうかと今振り返ると、出来の悪かった学年だなとしみじみと感じます。
入学しラグビー部に入った喜びも束の間、想像以上の厳しい苦しみの日々が続く中、他校の素行が悪い生徒と…になったり(…した人は後にキャプテンになりますが)、ニュージーランド遠征ではそういう本を日本に持ち帰ろうとしたり、スパイクを盗まれたり(被害者なのに怒られ、しょうがないからスパイクを買ってもらうも海外のサイズで精彩を欠いたプレイしかできず更に怒られていましたが)。携帯を校内に持ち込み先生に見つかった後、ラグビー部に露見するのが嫌で携帯を折ったり、近くのマクドナルドでスマイルのお持ち帰りを注文したり、と枚挙にいとまがございません。
出来が悪い分、指導の熱量も相応となり、シゴキ以外にも色々な指導を頂きました。FWチームでMTG中に一人遠山さんに突如タックルされて姿が消えたり、記憶が曖昧ですが、誰かに筋トレ1,000回と言われたり、試合中に自陣10メートルから「押しやい」と言われたり…。
ただ、多くのトラブルや厳しい練習を部員間でも衝突しながら乗り越えてきたが故に、入部して以降、学年内の部員の結束は日に日に強まっていました。
そこで起きたのが同期の退部でした。どうやっても意志を変えない彼を学年の部員全員で自宅まで押しかけて説得するも彼の意志は変わらず。
彼のことを皆大好きだったし、彼も皆のことが大好きなのに、結果は退部。暗くならなきゃ星は見えないとか言われたけど、星そのものが消えた時には何の励ましにもなりませんでした。
感情だけで世の中は廻らない。長い目でみればいい経験だったんでしょうが。それは是非、彼じゃない形でお願いしたかったと思います。
 そんな我々も3年となり、春の二部練習(スクラム100本、走り込みは毎日…)を経て、夏合宿。なかなか勝ててなかった小倉に勝利。森さんから「やれば出来るやないか!」(学年として初めて?)ほめられ、皆で喜んだことはよく覚えています。
 その夏合宿後の修猷戦も勝利。3年間を通じて初めての勝利だったこともあったからでしょうか。森さんに祝勝会をウエストで開いて頂き、この勝利を森さんが心の底から喜んでいたことが伝わってきて、すごく誇らしい気持ちとなりました。
 そして最後の試合となった全国予選のベスト8。相手は夏に勝った日本代表の山田を擁する小倉高校。小倉も仕上がっていましたがこちらはそれ以上。いつも以上のプレイをする皆に触発され、もっといいプレイを他の皆がするも、ただ、気持ちが前に出すぎていて、最後の1プレイがインゴールまで届かず。何度も逆転できるチャンスを逃しつづける惜しい場面が続いたまま試合終了。
 終了後、皆それぞれの悔しさを抱えていましたのをよく覚えています。逆転のトライが取り消しになったオブストラクション。もう少し右に抜けれていたら。ゴール前のペナルティ。もらった時にアメフトみたいにジャンプしてトライすれば逆転できて終われてたんじゃなかったのか等々。皆それぞれのたらればがあって。
負けたこともそうですが、たらればと言える余白があることが悔しくて。あんなに森さんに「一人一人のこげなちょっとの隙間が15人分でこんな大きな隙間になるったい」と言われ続けてきたのに。

こうして僕らの3年間が終わりました。

 もう、走り込みのある火曜日・水曜日は憂鬱にならなくてもいいけど、その分、あの走り込み前のなんとも言えないドキドキや、走り込みが終わった後の爽快感は感じることはできなくなり、部室で一人「やるしかねぇ」と呟いているやつとも会うことや、トイレに入ってふと隣を見ると血尿を流すやつを見ることもなくなり、夜、目と歯しか見えなくなるやつを笑うこともなくなりました。
 また、ヴァームに頼ることもなくなりましたが、阿蘇のゴールで飲むアクエリアスの味はもう味わえなくなり、試合前に豊山さんに気持ちを乗せてもらえることもなくなり、練習後に意味もなく長居し続けたマクドナルドの居心地はすっかり変わってしまいました。
 ただ、変わらないこともありました。それはこの3年間でできた色々な思い出です。楽しい思い出は今起きているネガティブなことを忘れさせてくれますし、つらい思い出は、頑張らなきゃいけない時に「あの時にくらべれば」と踏ん張りを与えてくれます。そして、久しぶりに同期と集まった時には、全ての思い出は楽しい昔話となります。
 福高ラグビー部の3年間では様々な学びを与えてくれます。ただ、今、最も自分に力を与えてくれるのは、同期の皆とのたくさんの思い出です。
高校卒業後も色んなことがありました。ただ、ただ。この思い出だけは。
 福高ラグビー部で、55回の部員や元部員とラグビーができたことを心から感謝しています。
今後もこのような、ラグビーだけでなく人間としての成長に必要な様々な貴重な経験を一人でも多くの福高生が得られること、並びに福高ラグビー部が今後もより一層発展して行かれますことを切に願っております。