寄稿 高校59回

あの時

靍 頌平

もう終わったと思った。

福岡県花園予選3回戦の嘉穂戦で、

スタンドオフが、靭帯を切った。

その正スタンドオフ不在の中、

準々決勝の城東戦の前半、

圧倒した試合をすべきところ、

それができずにいたため、

ハーフタイムに、

森監督から激しい叱咤を受ける。

正スタンドオフが、この試合で、

引退になってもいいのかという、

森監督の強い怒りと深い愛情を感じた。

博多の森 陸上競技場での準決勝、

相手は、春に約20点差で負けた筑紫。

1000人のスタンドの観客のうち、

200人、福高生が応援に来てくれた。

舞台は整った。

しかし、役者は満身創痍。

その場所で、一番の輝きを放つはずの

正スタンドオフは、痛み止めの注射2本、

右足首にグルグル巻きのテーピング、

立っているのがやっとの状態だった。

試合前、円陣を組んで、

千代原頭を歌い、目頭が熱くなる。

キックオフ。

案の定、正スタンドオフの

自慢のロングキックは飛ばない。

大股の華麗なステップも鳴りをひそめる。

筑紫の猛攻で、

前半は約20点差で折り返す。

しかし、後半、連続2トライで、

残り5分にして、4点差まで迫る。

あと1トライ。

敵陣15メートルまで迫る。

正スタンドオフから、ボールをもらい、

相手に体当たりをするも、

70キロの自分は、ノットリリースザボール。

あの時、バックスの後ろにいれば、

バックスのカラになっていれば。

筑紫に追い打ちのトライを決められ、

9点差でノーサイド。

笛が鳴った瞬間、みんなが泣き崩れた。

隣にいたプロップが、

自分に、ありがとうなと

泣きながらハグしてくれた。

いつも、練習ではケンカばかりしていたのに。

負けても、泣かないと決めていた。

だから、泣いてるみんなを、

ずっと笑って励まし続けた。

しかし、

昔から一緒にプレーしていた二人が、

泣きながら、ハグしてきた時には、

自分の感情を抑えるのに必死だった。

今も、あの時のペナルティを、

たまに思い出す。

その後も、たくさん、

いろんなペナルティをしてきたが、

一番後悔しているペナルティかもしれない。

しかし、その記憶が、17年経った今も、

自分を突き動かしてくれている。

同期や後輩のみんなには、

一生恨まれる出来事かもしれないが。